11:02
静かな夜だ。
車の音も聞こえず。
川の流れる音共に雨音が聞こえだした。
雨が降り始めたらしい。
我が友の又兵衛と炬燵で夜を過ごす。
猫の又兵衛は炬燵の中でおやすみだ。
奥様も寝室で眠られている。
私一人、離れの部屋で酒を呑んでいる。
薄暗い部屋で、静かに呑んでいる。
今日は呑む。深酒が進む。
酒の肴の備えは、たんとある。充分すぎるほどに。
奥様がお造りになった料理の数々。
酔が、まわりだした。
老いた思考がゆらめいてくる。
今日の出来事などを思い浮かべながら酒を呑む。
微睡む記憶が断片的に、映っては消えては心を和ませる。
その記憶も、長続きはしない。
消えかかる想い出は楽しい出来事ばかりではないにせよ、戻る記憶の内部に自分の求めている何かが映り揺らめく。
けれども、探し求める何かを、もう一人の自分がその記憶を封じ込めて迷走する。
薄暗い部屋の中で、酔いが静かに加速して行く。
雨音がすこしおおきくなってきた。
流れる雨音は音楽の様に聴こえてくる。
こんな夜も好きだ。